資源枯渇危機、地球環境問題深刻化の世界的情勢から「省資源・省エネルギー」は今世紀の重要な課題となっており、どの分野・部門においても最大の課題となっていると考えてよいだろう。私の専門としている建築環境設備分野においても、例外ではなく、省エネルギー対策がつよく求められている。これとは裏腹に建物の温熱環境の観点からいう「快適性の確保・向上」を実現するには増エネルギーとなる場合があり、快適性の損なわれる事態が懸念される。

そこで、私は建築分野での省エネルギーの追及は快適性確保・向上と両立して進められるべき課題であると考え、「省エネルギー」と「快適性確保・向上」を二つの大きな軸とした研究構想を持って取り組んでいる。

省エネルギーを実現するための課題を具体化すると、デマンド(負荷)そのものの低減、無駄なエネルギー使用を省き、より効率よくエネルギーを使用すること、自然・未利用エネルギーの利用することが挙げられる。また、これらの課題を実現していくなかで、温熱的快適性を維持・向上させることがもうひとつの課題である。ここに挙げる具体化した研究課題に対して研究を行ってきた業績を紹介する。

1.建築物の熱負荷低減

  • 地下鉄換気・冷房システムの省エネルギー化に関する研究, 2003.4~2008.3

地下鉄駅舎は列車発熱の排熱、構内粉塵対策のために、多くのケースでは全外気方式を採用している。しかし、外気導入量を見直すことで省エネルギーが図れることに着目して研究を行っている。名古屋市営地下鉄駅舎(国際センター駅)の実態調査を行ったほか、研究成果の一部は大阪市中ノ島新設地下鉄駅舎の設計資料となっている。気流解析(CFD)、計測データ分析が主な研究手段である。

  • ダブルスキンの熱的性能に関する研究, 2005.4~2009.3

ダブルスキンは窓からの日射熱取得負荷を軽減できるパッシブな省エネルギー手法であり、それの熱的性能予測手法に関して研究している。この研究の成果は、ダブルスキン設計資料の提供が期待できる。また、研究成果の一部は、東京都M大学校舎の実施設計資料となった。ダブルスキンの実測調査、数値解析、気流解析が主な研究手段である。


2.エネルギー利用効率向上

  • ライフサイクルエネルギーマネージメント(LCEM)の研究, 2006.4~現在

現在LCEMツール開発委員会で活動中である。建築設備のエネルギー管理を建物のライフサイクルで考えるためのツール開発に励んでおり、研究として成果を出している。

  • マルチエアコンの性能評価に関する研究, 2004.4~2005.3

高効率機器の運転性能把握、検証を行うものであり、機器の定格出力や運転効率はもちろん、部分負荷時の性能変動、外界気象条件等による影響を検証する。

  • CFDを連成した空調システムシミュレーションに関する研究, 2009.4~現在

空調分野での省エネルギー化が求められる中、空調対象空間の局所化や温度差確保はより効果的な省エネルギー化手法といえる。そこで、従来の完全混合モデルではなくCFDより室内温度分布を詳細に再現することは、省エネルギー化手法のコンセプトを実現するために必要不可欠となる。また、近年のライフサイクルアセスメントの要求に伴い、空調システムシミュレーションの活用ニーズは多くなっている。これを背景にCFDと連成する空調システムシミュレーションを推進している。

  • エネルギーの面的融通に関する研究, 2009.4~2010.3

エネルギー使用効率向上のための有効な対策としてIPCCではエネルギーの面積利用を挙げている。隣接する建物の熱源を適宜連結することで、熱源機器の負荷率を上げ効率向上を目指す。

  • 空調システムシミュレーションツールの国際的評価に関する研究, 2008.4~現在

国際的な空調システムシミュレーションツールの機能比較し、整理する。また、各ツールの特徴を理解し、有効活用のための情報を提供することを目指す。多数のツールの中で、日本のLCEMツールと中国のDeSTを選定し、両ツールの機能比較、シミュレーション結果比較を行った。また、Energy+との比較検討を行っている。

  • 省エネルギー手法の定量的評価に関する研究, 2010.4~現在

住宅・非住宅の省エネルギー指針が改定された。そのなかで、採用が進められた省エネルギー手法について、どれほどの導入効果があるかを示し、より積極的に省エネ手法を取り入れてもらうよう情報発信することが目的。モデル建物を想定し、LCEMツールを用いて検討を進めている。


3.自然・未利用エネルギー利活用

  • クール/ヒートチューブに関する研究, 2002.4~2006.3

土壌の熱容量を用いた外気負荷低減システムであるクール/ヒートチューブシステムに対して、その性能予測手法や設計手法の提案を行う。この研究の成果は、多数のプロポーザルと実施設計の資料となった。実測調査、数値解析・シミュレーションが主な研究手段である。

  • 業務用建物の外気負荷低減手法に関する研究, 2010.4~現在

クールチューブに関するこれまでの研究成果をもとに、業務用建物の外気負荷低減手法に関して研究している。全熱交換器は、外気負荷低減に有効な手法である。クールチューブも同じだが併用して有効であるか、また効果を引き出すための運転方法など研究が必要である。さらに、これらの効果を熱量だけでなく、エネルギー削減効果として評価していく。

  • 地中熱利用ヒートポンプシステムに関する研究, 2005.4~現在

ヒートポンプのヒートシンク、ヒートソースとして地中熱を利用することで、ヒートポンプの効率向上をはかる省エネルギー手法である。地中熱交換部の熱交換性能予測モデル作成、システムの長期間運転シミュレーションを行う。

  • ごみ焼却排熱利用に関する研究, 2008.4~2010.3

ごみ焼却排熱利用により、発電・熱供給を行い、一次エネルギー削減に寄与する手法である。発電効率や熱需要側の状況によっては、一次エネルギーの削減効果が異なる。その最適な利用形態と方針を提案することを研究の目的としている。


4.温熱快適性向上と維持

  • 対流・放射併用型空調システムに関する研究, 2006.4~2008.3

対流・放射併用型の空調システムを提案し、従来の対流式空調方式が抱えていた問題点を解消しようとするシステム。また、このシステムは上下温度差が小さくてドラフトを与えないメリットから高齢者にやさしい空調を提供できると期待されている。実測実験、気流解析、被験者実験が主な研究手段である。

  • 多床病室のパーソナル空調に関する研究, 2007.4~2008.3

多床病室において、患者さんの異なるニーズに対応すると同時に省エネルギーをはかるため、パーソナル空調を提案し適切な空調方式について検討する研究である。実測実験、気流解析、被験者実験が主な研究手段である。

  • ウォーターミストを用いるクーリングシステムに関する研究, 2006.4~現在

半屋外の温熱環境改善を目的に水の気化熱で涼房を行うシステム。水の適切な噴霧量、噴霧間隔、制御方法など明らかにすることを研究している。この研究の成果は、ミスト噴霧システムの設計・制御の資料提供となる。また、ほかの研究への応用(ex:水噴霧式冷却塔)が期待されている。実測調査、気流解析が主な研究手段である。

  • ヒートアイランド緩和対策に関する研究, 2006.4~2009.3

都心部の高層ビルからの空調排熱(主に顕熱成分)は、ヒートアイランドを引き起こす要因のひとつであるとされている。このことに着目し排熱形態を潜熱に代替することで、ヒートアイランド緩和を図る。この研究は、都市の温熱環境改善にもターゲットを置くものである。気流解析(CFD)が主な研究手段である。